松風の四方山記

現代を生きる若造の主に読書記録。その他の事も書くかもしれない。

#5 『母を恋うる記』感想

f:id:sykykhgou:20160314204321j:image谷崎潤一郎『刺青・秘密』 新潮文庫

高が一冊の文庫本程度でいつまで谷崎作品で引っ張るんでしょう。全く情けない話ですがこれが最後なので許して下さい。これが終わったらあと一作品だけ小説を読んだら私は思想の勉強をしようと思っていますので、いないであろうこのブログの読者集合φの皆さんは楽しみにしていて下さいね。

しっかしこの作品には本当に吸い込まれました。最初から最後までですね。何かに美しいと思う心ではなく、物凄く寂しいという感情です。まずなんでしょう、うら淋しい夜の風景にせよ、乾いた蓮の葉音にせよ、飯を炊く老婆にせよ、全ての描写が読む者を引き込む。引き込まれて自分まで夜の白い一本道を歩かされている気分になってしまう。田舎に引っ越したせいで恋しい日本橋への未練もより一層寂しさを際立てせていますね。またそこで嘗て遊んでいた子供達の描写もしているのも本当に引き込むのが上手です。えらい上から目線で申し訳ないですが誰も読んでいないので許されるでしょう。
まず読んでいく中で気になるのが、この少年の家は果たして存在するのか、という点です。途中出てきた老婆の家からしたのは紛れもない「嗅ぎ馴れた味噌汁の匂い」でした。そして中に出てきた老婆というのはただの他人ではないような気がしてならないのです。この少年は長い夢の中で老婆に突き放すような態度を取られるわけです。これは結局亡くなった母を追った結果、夢が見せた幻なのか。幻ではなく現実だとしてもこの部分と繋がることはあるであろう。いくら考えを巡らせどもこの作品の題名が「母を恋うる記」である以上この考えは拭えない。また最後に出てきた三味線を弾く女。これは本当の母であると分かるわけだがこれが何を示唆しているのか。お白粉の落ちない肌、というのは血の通っていない死体のメタファーであるのかもしれないが、それは言い過ぎであるように思う。何も私は正解を求めている訳では全くないですが、この作品を書いた谷崎潤一郎の考えを多少なりとも知りたいと思うのです。
いやあ僕にあまだ早かつたのかなあ。