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辣油の四方山記

現代を生きる若造の主に読書記録。その他の事も書くかもしれない。

#3 「少年」感想

f:id:sykykhgou:20160311222410j:image谷崎潤一郎『刺青・秘密』 新潮文庫

今回は谷崎潤一郎の「少年」という作品です。刺青っていうと「ああ〜」みたいな反応されることが多いのでそっちの方が有名なんでしょう。自分はまだまだ未熟者の童貞なので「刺青」を読んでもイマイチピンとこなかった、というのが大雑把な感覚です。しかしこの作品はビリビリ来ましたね。この2日で谷崎作品を3作品読ませて頂きましたが、いずれも根底を流れるテーマとして"衝動"というのが挙げられているように思います。「刺青」では美への追求衝動、「少年」ではサディズムマゾヒズムへの無意識の衝動、「幇間」では人の下に居るという一種のマゾヒズム、がテーマになっているんではないでしょうか。特にこの「少年」という作品においては、子供ならではの"無意識なエロティシズムを薄く含んだ快い衝動"がよく表現されており感動しました。何故感動したのか考えましたがやはり、誰しもが幼い頃経験したことのあるエロへの接触、無意識な歪みや快感といったものに依るところが大きいのではないでしょうか。

普段学校では非常におとなしいが家ではすっかりサド的衝動に取り憑かれている金持ちの息子の信一、学校では餓鬼大将であるが信一の前ではマゾ的衝動にやられている仙吉など、様々な性格を持った少年達を通して描かれているように思います。また信一の住む西洋風屋敷という幻想的な風景がより一層、読む者の気難しい性への衝動を掻き立て、美しく感じさせるのでしょう。美しい物とはそれだけで罪作りなもののようにさえ感じてしまう。
幼いというのは恐ろしいものです。人に暴力を振るうことで得る快感、人でなくても虫の柔らかい腹を捻りつぶすような心地よさ、これらのものが異常であるとは誰も言うことができないでしょう。しかし大人や世間から見れば明らかに異常であり、ただ幼いという理由だけでその存在が許されている行為であります。行為者である幼い少年は、その異常性に気付く間もなく、自分達の世界に没頭していくのでしょう。気付くことがない、というのが恐ろしい。しかしその行為、考えは純粋無垢でありどこか美しい、そう感じてしまっている自分自身に対しても恐ろしく感じてしまいます。
自分がこの作品で最も美しく感じた場面は何と言ってもやはり、今まで信一にやられる側であった腹違いの姉、光子が最後にマゾからサドへ立場を全て逆転させたところですかね。光子が今まで本当にマゾ的快楽を感じていたのかどうか、潜在的にサド的性格を内に秘めていながら信一の暴挙に抗わなかったのか、私には定かではありませんし恐らく読む者の全員がそうでしょう。しかしそんな考えをすべて一掃するエロティシズム、美しさがこの場面にはありました。普段誰も入らぬ洋風の部屋の緞子の奥、暗い闇を仄かに照らす蝋燭を乗せられる仙吉と主人公。手は既に縛られており身動きは取れず、ただ溶けた熱い蝋が顔へ滴るのみ、美しすぎるサド。自分はそういった類にはそこまで深入りはしていませんが、確実に私は世界で最も美しい女王を見ました。