辣油の読書記録

現代を生きる若造の主に読書記録。その他の事も書くかもしれない。

#43 『三銃士』感想

アレクサンドル・デュマ『三銃士(上・下)』 岩波文庫

余りにも有名ですが、三銃士を読みました。岩波文庫上下巻で合計1200ページ、中々ボリュームがありました。最後にこういう長い作品を読んだのは三島由紀夫の『豊饒の海』のような気がします。確認したところ『豊饒の海』は新潮文庫版で全部で1754ページでした、どうでもいい話なのでこの話はこの辺で。作品とページ数は関係ない。

この作品はアレクサンドル・デュマの『三銃士』『二十年後』『ブラジュロンヌ子爵』と続く『ダルタニャン物語』の第1部目だそうですね。先日友人から聞かされて知りました。しかも調べてみると『三銃士』以外は岩波文庫からは出ていないようで、岩波文庫から出ていないどころか一つの出版社からしか出版されていないようです。大変困った、手に入れるのが困難なのでしょうか。既に未読本を積みまくっているので、所詮手に入れたところで、という感じですかね。後半2篇についてはつまらないと別の知人も言っていました。

このサイトではあらすじをさらっていきたい訳ではないので私の心に残った幾つかの文章を抜粋していきます。

「わたし達の国では、《スコットランド人の気位》という」とバッキンガム公はつぶやいた。

「私の国では、《ガスコーニュ人の鼻っ柱》と申します。ガスコーニュの人間は、フランスのスコットランド人なのでございましょう」(上巻p.414)

王妃の命によってバッキンガム公の元で一仕事した時のダルタニャンとバッキンガム公の会話です。私は勇気や男気を褒める発言が好きなのかもしれないです。勇敢さの在り方も時代や地域毎に比較することができそうだとおもいました(こういうのはジェンダー論の分野なのでしょうか)。日本で男気というとなんでしょう、「白浪五人男」とかなんでしょうかね。忠臣蔵の話になると忠誠の在り方の違いとかも関わってきそうですね。(そういえば丸山眞男の『忠誠と反逆』も積んであるな…忘れよう…)

「見事見事、貴公は詩人の王だよ、アラミス!(アトスは感嘆する)まったく黙示録そこのけの曖昧な書きっぷりだ。しかも、福音書の真実さだ。」(下巻p.284)

これはアトスが僧侶を目指しているアラミスを馬鹿にして言う場面ですが、アトスの皮肉は本当に鋭いですね。この発言もアラミスだけでなく聖書まで傷付けている訳ですから、この神をも恐れぬ無頼さもまた魅力的です。無口なアトスは後々大きく働くのですが、その場面も非常に面白い。個人的に4人を好きな順番に並べるとアトス→ダルタニャン→アラミス→ポルトスですね。アトスは実に良い味を出していると思う。

アトスはそれからミレディーの方に一歩近づいた。

「あなたが私にはたらいた悪事は、許してあげる。私の将来を傷つけ、名誉をふみ躙り、恋を汚し、暗い絶望に落して来世の希望まで失わしめた罪、一切を許すのだ。静かに死になさい。」

次にウィンテル卿が出る。

「私は弟の毒殺、バッキンガム公の暗殺の罪を許そう。なお、フェルトンを自滅させ、私にも危害を加えようとしたことをも許してあげる。静かに死になさい」

「そして、私は──」と、ダルタニャンが言った。「貴族らしからぬ欺瞞行為によってあなたの怒りを買った罪を、あなたにお詫びする。その代わりとして、私の恋人を殺し、また私にたびたび復讐を企てたことを許してあげます。私はあなたの最期を悲しく思う。静かにお死になさい」(下巻p.559)

これは枢機官の有能なスパイとして働いていたミレディーが処刑される直前の場面。今まであらゆる男の恨みを買ってきたミレディーがその分の精算をさせられようとしている。あまりに凶悪なこの女に対して全員が罪を許しているが、しかし全員がこの女が死なねばならないと考えている。この会話は簡素な小屋で行われているのだが、口調の静けさが男達の怒りを実によく表している。最も胸が熱くなるシーンと言わざるを得ません。

まあこういう風に、今回もよく分からない記事になってしまいましたが、この赦免状を見れば許して頂けると思います。

《この紙片を所持する者のなしたることは、予の命令によるなり。一六二七年十二月三日・ラ・ロシェル陣営              リシュリュー