辣油の四方山記

現代を生きる若造の主に読書記録。その他の事も書くかもしれない。

#35 『英単語の世界』感想

寺澤盾『英単語の世界』 中公新書

最近よく本棚の並びが私、気になります。私はなるべく多くの本を棚に収納したいので文庫本の段や新書の段、大きい本の段という風に大きさによって段ごとに分けて使っているんですが、そうすると関連のある本数冊をまとめて置くことができないんですよね。一段目のあの本と同じ著者の本は三段目のあそことか。割とイライラしたので並べ替えようとしたのですが余りにも見栄えしないというか、汚いので即止めました。仕方ないことなんですかね、諦めます。

今回の本は英語関連です。見りゃ分かるか。寺澤盾氏は東大で英語の研究をしている教授、つまり日本有数の英語使いである訳です。寺澤盾氏の父は『英語語源辞典』や『聖書英語の研究』を制作した寺澤芳雄氏です。自分は毎回著者の経歴とか少し調べてからその本を読むんですが、意地が悪いとかそういうことではなく、どんな本であるのか以前に、どんなバックグラウンドを持っているかを知ることは理解の上で非常に重要だと感じているからやっているんです。私のような若造は本だけ読んでもその本の内容しか目に入って来ませんが著者のバックグラウンドを調べるとその本の位置というか座標みたいなものが少し分かると思うんです。んなこと常識か。失礼致しました、それでは本題。

この本は主に英語によくある受験生の敵、多義語が何故その意味とその意味を兼ねるようになったのか、どうしてこの様な使われ方をするのか、などを古英語や中期英語、古ノルド語などの使われ方の変遷から紐解いているもの。著者もまえがきで言っているように、「英語学や言語学を学んだことのない読者」にも非常に分かりやすくなっているのでとても読みやすい。この本を読み始めて1ページ目に"bar"という単語がなぜ棒や棒状のもの以外に酒場などの意味を持つようになったかの説明があるのですが、正直なところ「この本、良くないなあ」と思ってしまいました。だってそんな書き出しで誘ってきたら止まらなくなるに決まってますからな。勿論止まらない訳です。電車の中でサラリーマンに挟まれながらこうも集中できてしまう。この著者の教養の深さに感服。この手の"面白い"感情をもっと得たいなあと思っているんですが、中々そうはいきませんよね。話を戻します。意識したことは無かったがこの本に気付かされて特に面白いと思ったのは英語や日本語の比喩について。メタファー(隠喩)というのは我々に馴染みが深いと思うがそれ以外にもまだある。この本ではメトニミー(換喩)とシネクドキ(提喩)が主に挙げられている。メトニミーは近接性を利用した比喩、例えば「酒が割れた」や「手習い」などがこれに当たる。割れたのは酒ではなく酒が入れられた瓶であり、手と言っているが手を指すのではなく文字を指している。これらは近くに存在しているという理由で本来示すべき言葉の代理をしているのだ。シネクドキは包含関係を利用した比喩。飲み屋の常連が一見さんに対して「お前見ない顔だな」と言ったり、「その大学には優秀な頭脳が集まっている」と言った時の「顔」や「頭脳」はその人の持つ、あるいはその人に含まれる特徴の一つを提示している。一部を提示することでその対象物全体を表している。こんなことは今まで意識したことも無かった。非常に面白い。

他にも、語形が似た単語同士の意味変化もある。extinguish(絶滅する)とdistinguish(区別する)、anecdotes(逸話)とantidotes(解毒剤)などの言い間違いはしばしば起こる。この様な間違いをマラプロビズムという。私も少し英文に触れていなかっただけですぐ見間違えてしまう。この言い間違いから語の意味が変化すると言ったが、God bless you.という時のblessは元々bleedと同じ血に関する語であったのがbliss(至福を恵む)と混同されたことが理由であるという。何という素晴らしい教養。他にも此処に書いてしまいたいことは積もる程あるのだがキリが無いので控えることにする。

とにかく、ここまでウィットに富んだ本は読んだことがなかった。これからも今回の様な読書を望む。